ファッション業界だけでなく、アート業界でも第一線で活躍し続けるデザイナー、ジャン・シャルル・ド・カステルバジャック(Jean-Charles de Castelbajac)は、1949年にモロッコ最大の都市、カサブランカで裕福な一家の元に生まれた。デザインのスタイルはアート独創性フレッシュさの4つが軸となっており、その独創性の高さが評価されている。1967年には、大きな影響を受けたダダイズムのアーティスト兼作家、ラウル・ハウスマンと出会い、1968年に最初のコレクションを発表。その後、1974年に自身のブランド「カステルバジャック」を設立した。ブランドは急成長し、1977年に東京で最初のストアをオープンすると、90年代頃〜2000年代にかけてブランドの人気は熱狂的なものになり、「アイスバーグ」、「ロクシタン」、「モンクレール」、「プチバトー」など数多くの有名ブランドとのコラボレーションを発表した。これまでマドンナビヨンセケイティー・ペリーレディー・ガガなど世界的なセレブだけでなく、アンディ・ウォーホルエットレ・ソットサスロバート・メイプルソープ、キース・ヘリングオリビエーロ・トスカーニなどの名だたるアーティストらと合作をした他、教皇ヨハネ・パウロ2世の典礼服をも手がけた。彼の作品のいくつかは、パリガリエラ美術館ロンドンビクトリア&アルバート美術館などで展示されている。

2018年には、「ユナイテッド カラーズ オブ ベネトン」(以下ベネトン)のアーティスティックディレクターに就任するなど、今なおその才能とカリスマ性で、世界のファッション業界を牽引している。

Wakapedia’s Jean-Charles de Castelbajac

ジャン・シャルル・ド・カステルバジャックは、ワカペディアにとって、思わず拝んでしまいたくなる、仏様のような存在だ。原色を使ったポップなスタイルは、ワカペディアのアートディレクター、ジュリア・ビゾンにとっても、貴重なインスピレーションとなっている。(彼の元でインターンをしたくて、履歴書を送ったこともあるそう!)ナチュラルでありながら、見る人を楽しませるような芸術的なアプローチ方法は、ワカペディアの理念にも大きな影響を与えている。彼の凄いところは、ファッション以外にも、建築やコミュニケーションなど、あらゆる分野において才能を発揮するマルチさだ。そんな憧れの存在である彼との思い出は、つある。つ目は、2015年にパリオルリー空港で行われた、リニューアル・セレモニーだ。大規模なイメージチェンジとして、空港のロゴがリニューアルされただけでなく、南ターミナルには彼がデザインしたモダンでポップなフレスコ画が掲げられたのだが、そのデザインに圧倒されたのが印象的だった(2020年現在は、別のロゴが使用されている)。つ目は、今年の2月にミラノファッションウィークで開催された「ベネトン」のショーだ。「ブレンディッド・フューチャー(融合する未来)」というタイトルがつけられた彼の2020年秋・冬コレクションは、ファッションパフォーマンススケートカルチャー、音楽そしてソーシャルメディアなど、各要素がつの空間で融合するという、前例のないショーのスタイルだった。

そしてバックステージでは、ワカペディアチームを快く迎え入れてくれたカステルバジャックから、彼が持つ「少年の心」を垣間見ることができた。(彼と同時に現れたイケメン息子達のルイ・マリーギヨーム・ド・カステルバジャックと会い、舞い上がってしまったのは内緒だけど)そんな我らが崇拝するカステルバジャックが、インスタグラムでサラワカをフォローしてくれたときは、まるで幻のポケモンをモンスターボールで手に入れた時のような、達成感と絶頂感を味わったほど!さぁ、電気ショックならぬ、カルチャーショック溢れるこのインタビューを読んで、「芸術感性、ゲットだぜーッ!」

ワカペディア:偉大なるジャン・シャルル・ド・カステルバジャック様、私たちはあなたに会えて大変光栄でございます!ところで、このインタビューはイタリア語、フランス語、英語、日本語とありますが、どの言語がご希望でしょうか?

カステルバジャック(以下JCC):お好きなように!(笑)色んな文化をミックスしてみようか。お互いにそういうのが好きそうだからね!

ワカペディア:仰せの通りに(笑)ここからはいつものワカペディアスタイルで行こうかな。まずは、「ベネトン」の3つ目となるコレクション、おめでとうございます!私達、すっごく気に入ったの!ところで、なぜ「ブレンディッド・フューチャー(融合する未来)」というタイトルをつけたの?

JCC:現代を生きる僕たちは、既に様々な人種の「ユナイテッド(統合)」を超えて、「ブレンド(混合)」されていると思うんだ。様々な肌の色を持つ人たちが、たった一つの世界で混ざり合ってるって言った方がわかりやすいかな?だから、そんな時代に相応しく、国境や壁のない「世界中の市民」のために服を作りたいと思ったんだよ

ワカペディア:なるほど!ちなみにあなたは、「ベネトン」が持つクリエイティブさの方向性については、どう思っているの?

JCC:ベネトン」にはすぐに馴染めたし、とても快適だよ。物事を進める速度も、ちょうどいいテンポを見つけたしね。今は、自分達の製品がどのように消費者の元に届くか、という事に焦点を当てているんだ。服のデザインからファッションショーのパフォーマンス、ショーウインドーでのプレゼンテーション、SNSでのコミュニケーションまでを、一連の流れで考えているんだ。

ワカペディア:服のプロモーションの仕方も、最高だと思う!イイネを100回つけたいくらい!(笑)ところで、あなた自身のブランド「カステルバジャック」と「ベネトン」でのスタイルの違いについて、教えてもらえるかな?

JCC:実は、僕自身のブランドのコレクションは、実験的なものだったんだ。もちろん生地や美学、素材など、数多くの要素において上質さは追求していたけど、手探りだった部分が多かったのさ。だから、ターゲット層は狭かったかもね。「ベネトン」では、その経験を生かして、より多くの人に着てもらえるようにデザインしてるよ。「革命を起こした」と言うよりは、「デモリューション(Demo-Lution)」の方が近いかな。これは僕が勝手に作った造語で、民主的(Democratic)と革命(Revolution)の概念を組み合わせたものなんだけど。素材の品質、機能、価格、エンターテイメント性。これら全てが、重要な要素となっているんだ。「ベネトン」の2020年秋冬コレクションは、現代人の多様なライフスタイルにフィットするような、「みんなのためのファッション」なんだ。そこには、誰もが共有できるような服であって欲しい、という思いが込められているんだよ!

ワカペディア:斬新なアイデアだね、さすがカステルバジャック様!正直なところ、あなたのブランド、「カステルバジャック」のファッションショーがちょっと恋しくなったりもするんだけど。あなた自身はそんなことない?

JCC:全くないね。モダニズムの追求は、今「ベネトン」でやっているしね。以前のようなファッションの概念は、今はもう必要とされていないと思っているんだ。いずれにしても、50年間それをやってきた事だから、もう惹かれないかな。今は自分の職業を通して、社会に影響を与えることに興味があるんだ。「クールなデザインで、ハイクオリティでありながら、誰にとっても手頃な値段で服を提供すること」にね。

ワカペディア:全ての人に平等で優しいなんて、さすが!あなたが物づくりをする上で、その無限のインスピレーションはどこから来ているの?

JCC:歴史や何世紀も前の記憶のように、目に見えないものからインスピレーションを受けるよ。例えば子供の頃、幽霊が出そうなほど古い城を訪れた時とかね。ここがかつて激しい戦いの舞台だったんだ、って思いを馳せながら、広い野原を走り回るのが好きだったんだ。そうやって昔から、何かにつけて空想するようになったんだ。

ワカペディア:なんとなくイメージが膨らんできたけど、私たちももっと、あなたみたいに壮大なインスピレーションが浮かぶように頑張らないと!(笑)

JCC:焦らないで、君たちはまだ若いんだから。僕はちょっと変わった感受性を持っているのかもね。僕にとって、全ての物事が水平線上にあるような感覚なんだ。まるで時代や季節、生きてる人と亡くなった人の間には仕切りがなくて、ただ小川が流れているようなイメージ。なんだか、浮世離れしたお坊さんのようだね!(笑)

ワカペディア:(やっぱり仏様なんだ!と心の中で呟きながら)独特な感性の持ち主なのね!そんなあなたにとって、ファッションとは?

JCC:僕の30年前の作品と今の作品との間に、連続性はないよ。個人的には、ファッションよりもスタイルに重点を置いていると思う。ファッションは大好きだけど、「ファッションのルール」みたいなものに縛られる気はないからね。僕にとってのファッションは、流行を超えた社会的、文化的、倫理的、民族的なものと強い関連があるんだ。ちなみに、「ビジュアルアクシデント」というものにいつも刺激を受けているよ。例えば、通行人が着ている黄色いドレスと、赤い消防車の色のコントラストとかね。矛盾や不完全さっていうのかな。完璧なものが好きじゃないんだ。完璧なものは、つまらないと思ってしまうからね。

ワカペディア:じゃあ、未完成な私たちは面白いって思ってもいいのかな?(笑)ところで、小さい頃はどんなおもちゃが好きだったの?もしかして、自分が欲しいものを手作りしてたのかなと思って。

JCC:よくわかったね!幼い頃からおもちゃを持っていなかったから、あれこれ想像して、自分でおもちゃを作らなければいけなかったんだ。想像力を活かして、寄せ集めたものから新しいものを作り出すっていうプロセスは、今の仕事にも活きているよ。あとは、本能だね。これが僕の独創性の核となる部分なんだ!

ワカペディア:あなたのコレクションはとてもポップで、ディズニーのイメージをよく使用しているけど、日本のアニメやマンガの世界からもインスピレーションを受けているの?

JCC:正直なところ、日本文化は大好きだけど、アニメよりも黒沢明監督の美学や、江戸川乱歩の世界観、特に彼の短編小説「人間椅子」に影響を受けているかな。あとは、日本独特の官能文化とかもね。

ワカペディア:日本文化の色んな側面を見てくれて嬉しいよ!(笑)ファッション界の若手デザイナー達に向けて、何かメッセージはある?

JCC:「フォローミー!俺は最高だからな! 」なんてね(笑)冗談はさておき、2015年に出版した僕の本、『PHOTO RAINBOW』 を読んでもらいたいな!(本人のサイン入り限定版。カラフルでポップな写真や彼の洋服、スケッチ、図面などを写真に収めたもの)これは学校で使ってもらうために出版したんだ。特に、これからを担う若者たちに刺激を与えられたら良いなと思ってね。

ワカペディア:私たちも思い入れ深い、インスピレーションのバイブル!(笑)最後に、音楽とアートは深く結びついていると思う?

JCC:音楽とアートだけじゃなく、愛と欲望などすべての要素が、芸術を生み出す上で基本になっていると思うよ。

ワカペディア:(感動で胸が熱くなりながら)今日は沢山聞けて本当に嬉しかったです!あ、そういえば見て!実はあなたの本を持ってきたんだけど、記念に最初のページに何か描いて欲しいの。

JCC:いいよ!でも何にしよう。僕のお任せでいいかな?自分の本能には自信を持ってるからね!(笑)

ワカペディア:すべての作品と同様、傑作になること間違いなしだよ!(笑)

Description & Interview: Sara Waka

Edited by: Wakapedia Japanese Team